PRINCE2は「原則」、「テーマ」、「プロセス」及び「プロジェクトのニーズに合わせたテーラリング」の四要素から構成されます。ここでは、それぞれの要素を簡潔に説明します。
「原則」は、PRINCE2の他の要素を支える指導的役割を果たし、あらゆる状況に適用可能です。「テーマ」は、プロジェクトの全期間を通して取り組むべきプロジェクトマネジメントの側面です。「プロセス」では、誰が、何を、いつ行うのかが表されます。最後の要素である「テーラリング」は、PRINCE2を様々な種類及び規模のプロジェクトへ適切に適用することを確実にするものです。
顧客とサプライヤ
PRINCE2は、各プロジェクトが顧客組織から発注され (すなわち支払が行われ)、納品物 (PRINCE2では成果物と呼ばる) が一つあるいは複数のサプライヤ組織によって納品されることを前提としています。実際にはサプライヤがIT部門など顧客組織の一事業単位である場合も、成果物の納品に関してはサプライヤとしての役割を果たします。
ベネフィット
プロジェクト終了時に、「通常業務」と呼ばれる顧客の日常の活動において、一つあるいは複数の事業分野で成果物が使用されます。ここでは、成果物の利用から顧客が何らかのベネフィットを享受することが期待されています。
例えば、従業員の古いパソコンを新品に交換するプロジェクトには、莫大な金額がかかるでしょう。新しいパソコンの仕様のおかげで従業員の業務がより効率的になり顧客の人件費が削減されるなら、それがプロジェクトのベネフィットです。
PRINCE2の原則
ビジネス・ジャスティフィケーション

Business justification
PRINCE2における意思決定を推進するものの一つとして、予想ベネフィットの達成に必須の投資を常に正当化する必要性が挙げられます。つまり、投資に対する(金銭的あるいはその他の方法で測定される)明確なリターンが常に存在していなければならず、リターンがない場合にはプロジェクトを終了させなければなりません。これはPRINCE2の強みの一つであり、他のプロジェクトアプローチやツールキットと異なる点でもあります。

経験から学ぶ
この原則において、プロジェクト実行者は過去のプロジェクトにおける経験から学ばなければならないとされています。
過去のプロジェクトで特定のサプライヤを選択し、低品質の物が遅れて納品されたケースを考えてみましょう。この場合、素晴らしいサプライヤであるとは言えません。続くプロジェクトにおいて異なるサプライヤが選ばれるのは、当然です。つまり、過去のプロジェクトの教訓が生かされたのです。
このように、PRINCE2は、プロジェクト管理において組織が継続的に改善を行う助けとなります。

明確に定義された役割と責任
プロジェクトを立ち上げプロジェクトマネジメントチームのメンバーを任命する際、十分な権限を持つ人間が、プロジェクトにおけるアカウンタビリティに見合った役割を与えられることは理に適っています。また、アカウンタビリティ及び責任の所在が明確に定義されていない場合には、互いに責任を転嫁し合うような状況にすぐ陥ってしまうでしょう。
PRINCE2では、プロジェクトマネジメントチームの各メンバーの責任に関する詳細なリストとして、付属書を一つ充てています。このリストの全てに従う必要はなく、プロジェクトのニーズに合わせて調整することができます。

成果物中心
PRINCE2によって計画する際まず問うべき質問はいつも「何が(プロジェクトから)納品されなければならないのか?」ということです。この質問に対する十分に明確な答えがない場合、計画は間違いなく失敗するでしょう。質問に答えて初めて、アクティビティ、その順序、時間、資源及びコストの見積もりが計画に加えられます。計画を補助するため、PRINCE2は成果物ベースプランニングテクニックとして知られる非常に効果的なテクニックを提案しています。

例外によるマネジメント
PRINCE2は、プロジェクトにおいて起こることを100%予測するのは不可能である、という立場をとっています。そのため、プロジェクトのささいな遅延や金銭の発生ごとにプロジェクトマネージャが決定をプロジェクトスポンサー (PRINCE2ではエグゼクティブと呼ばれる)レベルの処理事項とすることを避けるために、「許容度」の使用を推奨しています。これは、次のレベルの権限者の処理事項とする前に、計画において許されている偏差です。許容度は、時間、費用、範囲、品質、リスク、ベネフィットなどについて設定することができます。例えば、2週間遅れでの納品が認められるプロジェクトには、プラス2週間の時間許容度があることになります。

段階によるマネジメント
最初にプロジェクトの必要資金を全て投じその決定を見直すための決定点を持たないことは、非常にリスクが高いと言えます。そのため、PRINCE2は、プロジェクトをいくつもの「管理段階」に分け、各段階をエグゼクティブによる可/不可の決定と対応させることを推奨しています。そのため、投資に関する判断については、よりリスクの少ないアプローチとなります。

プロジェクトに合ったテーラリング
最後の原則は、様々な意味において最も重要だと言えます。常識を持ってPRINCE2を適用するということです。決定事項であるかのようにPRINCE2に盲目的に従うのではなく、自分のプロジェクトがPRINCE2をどれほど必要としているのかを考える方が理に適っています。他の六原則の適用について考えることがプロジェクト実施者の助けとなるのです。
PRINCE2のテーマ
プロジェクトを通して継続的に適用されるべきプロジェクトマネジメントベストプラクティスが、いくつかあります。PRINCE2では「テーマ」と呼ばれています。

ビジネスケース
このテーマでは、ビジネスケースがプロジェクトを通してどのように開発・維持されるか、各段階の終了時にどのように更新・見直し・承認されるかが類型化されています。プロジェクト委員会が、プロジェクトが投資に見合う価値があるかという点に基づいて決定を行います。

組織
このテーマでは、プロジェクトマネジメントチームの全メンバーのアカウンタビリティと責任の構造が類型化されています。PMIのプロジェクトマネジメント知識体系(PMBOK® ガイド)に慣れている方は、PRINCE2がプロジェクトマネジメントチームの役割についてより広い定義をしていることに驚かれるかもしれません。しかしながら、PRINCE2において推奨されるプロジェクトマネジメントチームの構造は非常に柔軟で、小規模なプロジェクト及び大規模なプロジェクトのどちらのニーズにも同様に適用することができます。

品質
品質は、全てのプロジェクトにおいて大変重要な要素です。PRINCE2では、要求される品質基準の定義に関する責任の所在、そして、あらゆるプロジェクトに必要な品質管理の計画をしやすくするシンプルなプロセスが類型化されています。また、文書の品質を見直す際に使用が特に推奨される、品質レビューテクニックも類型化されています。

リスク
PRINCE2では、ポジティブ及びネガティブな不確実性によってリスクが定義されています。このテーマでは、把握、評価、リスク対応策の計画及び実行、そしてリスクの状態に関する報告の手順が表されます。リスクは、計画の進捗を通して取り組むものであり、プロジェクト委員会がプロジェクト継続の可否決定する際には、段階修終了アセスメントへの主なインプットとなります。

計画
PRINCE2では、様々なレベルのプロジェクトマネジメントチームのニーズに対応するための様々なレベルの計画が定義されています。上位の計画、例えばプロジェクト委員会に向けた計画は長期的であまり具体的ではありません。下位の計画、例えばチームマネージャによって利用されるチーム計画は、短期的でより詳細です。PRINCE2は、計画の範囲を特定し成果物の品質基準を定義するために、成果物ベースのプランニングテクニックの利用を推奨しています。

変更
どのようなプロジェクトも、変更に依存しています。PRINCE2プロジェクトもその例外ではありません。しかしながら、PRINCE2は課題及び変更コントロール手順によって類型化される、変更をマネジメントするためのメカニズムを有しています。課題と変更を把握して影響分析・決定を行い、対応策を実行・追跡・報告するためのシンプルなプロセスがまとめらています。

進捗
先に述べた許容度は、いかにして上位管理者から下位管理者へ、例えばプロジェクト委員会からプロジェクトマネージャへ、権限を委譲するのかを類型化しています。許容度を越える段階のパフォーマンス及びプロジェクトは追跡・報告されなければなりません。これは、チームマネージャとプロジェクトマネージャの間、及びプロジェクトマネージャとプロジェクト委員会の間で定期的に起こることです。
しかしながら、報告書は、各マネジメントレベルのパフォーマンス管理を可能にするPRINCE2による管理の一つにすぎません。プロジェクト継続の可否を決定が行われるため、プロジェクト委員会による段階終了アセスメントが主要な管理です。このように、プロジェクト委員会はプロジェクトマネージャが支出及び作業の承認を行うために主要な決定を行います。
PRINCE2のプロセス
PRINCE2のもう一つの強みは、何が、いつ、誰によって行われなければならないかが類型化されていることです。これは、プロセスによって説明されているものです。プロセスではPRINCE2のテーマが適用され、プロジェクトの開始前から始まり、プロジェクトの終了まで続きます。

プロジェクトの指示
PRINCE2プロジェクトで行われる最初のプロセスではありませんが、投資価値のあるプロジェクトか、資金調達に関わるべきか、プロジェクトを継続するべきか、終了するべきか、変更とリスクにどう対応するべきか、ターゲットは何か、等プロジェクトにおける最も重要な決定の全てがこのプロセスで行われるため、様々な意味において最も重要なプロセスです。これらの決定は、PRINCE2プロジェクトにおける最上位の権限者であるプロジェクト委員会によって行われるものです。
プロジェクト委員会は三要素から構成されています。資金調達の責任者でありプロジェクトの最終的なアカウンタビリティを負うエグゼクティブ、ベネフィットの実現と特定に責任を負うシニアユーザ、成果物の納品に責任を負うシニアサプライヤです。プロジェクト委員会は、プロジェクトに関する全ての主要な決定を集合的に行います。

プロジェクトの立ち上げ
最初のプロセスであり、プロジェクト開始前に行われます。なぜプロジェクトが必要なのか、主なステークホルダーは誰か、教訓は何か、最終的な(プロジェクト)成果物及び成果物の納品方法などについての、高いレベルでの理解を高めることを目的としています。これらの項目は全て、高いレベルのプロジェクトの概要を構成するプロジェクト要約書に文書化されます。ここで、第一ステージでの計画も作成されます。どちらの文書(マネジメント成果物)も、プロジェクトの第一段階に取り組む前にプロジェクト委員会によってレビューされ承認されます(承認されないこともあります)。
プロジェクト委員会がこのプロセスの最終段階で問うべき重要な質問は、「このプロジェクトに価値があるのか、プロジェクトは理に適っているのか?」ということです。プロジェクトが理に適い、価値のあるものであるならば、プロジェクトの第一段階をスタートする権限がプロジェクトマネージャに与えられます。

プロジェクトの開始
このプロセスでは、第一段階でプロジェクトマネージャによって行われる作業がカバーされます。ここでは、より詳細な計画と準備が行われ、プロジェクト開始文書(Project Initiation Document, PID) が作成されます。
PIDは、プロジェクトの費用とタイムスケールを詳細化し管理段階を特定するプロジェクト計画書、プロジェクトの費用対効果、マネジメント戦略、リスク、品質、構成マネジメント及びコミュニケーションを表す詳細なビジネスケースなどの、いくつかの文書を集めたものです。
PIDはベネフィット測定のための計画書、次の段階へ向けた段階計画書と共にプロジェクト委員会へ提示されます。プロジェクト委員会がプロジェクトに価値があると決定し、必要な管理及び戦略が全て整い、プロジェクト計画が現実的で実現可能なものである場合、PIDと段階計画書がプロジェクト委員会に承認され、次の段階へ進めるためプロジェクトマネージャに権限が委譲されます。

段階のコントロール
ここまでは、プロジェクトの計画及び管理に使用される文書(マネジメント成果物とし呼ばれる)が作成されます。ここでは、「専門的な」製品、例えばベネフィット実現に向け顧客が使用する成果物の受け渡し、などの納品を始める時です。この段階計画書では、成果物を設計、開発、試験するための作業(ワークパッケージ)を特定します。
このような専門的な作業はチームによって行われ、チームマネージャに作業を委任するのはプロジェクトマネージャの責任です。チームマネージャは報告書によってプロジェクトマネージャに進捗を報告します。プロジェクトマネージャはあらゆる課題及びリスクを管理下に置き、自らの権限を越えるものについては上位管理者の処理事項とされます。これら全てがこの段階で起こり、全ての通常マネジメントがカバーされています。プロジェクトマネージャは、定期的に段階の進捗をプロジェクト委員会に報告します。
段階がプロジェクト委員会によって割り当てられた許容度の範囲内にある場合、プロジェクトマネージャは許容度踰越の恐れを上位管理者に報告する必要はありません。しかしながら、許容度踰越が予測される場合、十分な情報に基づいて決定を下すことができるよう、プロジェクト委員会への報告のために例外報告書が作成されます。

成果物納品の管理
このプロセスはチームマネージャによって行われ、全ての専門的作業がサプライヤチームによって行われます。ここでは、ソフトウェアプロジェクトを例にとると、SCRUMやエクストリーム・プログラミングなどの専門的なソフトウェア開発手法が用いられます。プロセスのどこかの時点でチームが成果物をユーザに納品すると、品質管理が行われ、顧客によって承認されます。

段階境界のマネジメント
段階が終了する直前に、プロジェクトマネージャは次の段階計画を準備し、ビジネスケースとプロジェクト計画を更新し、リスク状況に関する見直しを行わなければなりません。現在のステータスをまとめた報告書が、プロジェクト委員会のために準備されます。プロジェクト委員会は報告書を踏まえ、プロジェクト継続の可否について決定を下すことができます。次の段階へ進む、との決定が下された場合、「段階のコントロール」プロセスの引き金となります。この一連の流れは、続く各段階で繰り返されます。

プロジェクトの終了
最終段階の終了時、あるいはプロジェクト委員会が時期を早めてプロジェクト終了を決定した場合、プロジェクトを終了しなければなりません。このプロセスは、プロジェクト活動及びそれに続く運営と、通常業務との間の明確な区切りをつけるために設計されました。ここでは、必要な受け入れ基準を満たしていることを条件として、特定の成果物が運用チーム及びサポートチームに受け渡されます。
やり残した事項を全て完成させ、担当部署へ引き渡します。納品物、コスト、タイムスケール、課題の影響、変更及びリスクを含むプロジェクトの達成事項の概要が、報告書としてプロジェクト委員会に提示されます。報告書には、プロジェクトからの教訓、後続プロジェクトチームへの受け渡しの準備が整っているか、が要約されています。成果物がユーザによって受け取られ、プロジェクトでこれ以上取り組むべき事項がないと満たされている場合、プロジェクト委員会はプロジェクトの終了を許可することができます。
テーラリング
原則、プロセス、テーマを理解することと、これらをプロジェクトのニーズに合わせて効果的に適用することとは、別個です。
テーラリングの際に考慮しなければならないテーマは七つあります。例えば、自分のプロジェクトにとって適切なリスクマネジメントアプローチは何か、を考えてみてください。リスクマネジメントアクティビティは、いつ行われるのでしょうか。誰によって行われるのでしょうか。どのようなツール及びテクニックが必要なのでしょうか。プロジェクトの立ち上げ段階で、四つのマネジメント戦略(リスク、品質、構成マネジメント及びコミュニケーション)を書く際に、多くのPRINCE2テーマをテーラリングすることができます。
また、プロセスのテーラリングについても考慮する必要があります。例えば、プロジェクトの開始時に、プロジェクト始動とプロジェクト立ち上げの両方を必要とするのでしょうか。この二つを統合することはできるのでしょうか。
PRINCE2で定義されるマネジメント成果物には、ログ、登録簿、報告書、計画書など、プロジェクトの計画、マネジメント、管理をしやすくする二十六種類があります。果たしてこれらの全てが必要なのか、考えてみましょう。おそらく、小規模なプロジェクトでは全てが必要なわけではないでしょう。例えば、課題登録簿とリスク登録簿など、いくつかは統合することができるかもしれません。全く必要ないものもあるかもしれません。
その先には ?
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